福島事故後も原発新設を進める英国に変化の兆し?

東京電力福島第1原発の事故から、まもなく5年になる。事故は原発のリスクを世界に再認識させ、特に先進国での原発離れを加速させた。欧州ではドイツ、スイスが「脱原発」の方針を明確化したほか、原発大国フランスも、オランド政権は原発への依存度を下げることを約束した。

そうした流れの中で、数少ない例外と言えるのが英国である。キャメロン政権は、エネルギー不足と地球温暖化に対処する切り札として、原発を国内6カ所以上で新設する方針を打ち出している。

2012年にはフランス電力公社(EDF)が英国で25年ぶりとなる新設の許可を受けたほか、日立製作所、東芝もそれぞれ英国内の事業体を買収し、原発新設に向けた手続きを進めている。福島の事故後の世界的な需要後退に悩む原発業界にとって、英国は救いの手ともいえる状況だ。

英国の世論も、こうした政府の判断を容認してきた。世論調査では、事故後一時的に原発反対の割合が賛成を上回ったものの、その後は一貫して賛成が多数派である。

背景の一つとして、英国には地震がなく、福島の事故がどこか「ひとごと」と受け止められていることがあるように思う。

英国外務省に勤める知人は「福島の事故は地震後の津波で冷却装置が作動しなくなったことが原因だが、英国では同様の事故は起こりえない。英国にとっては、原発のリスクよりも地球温暖化の方が問題だ」と国民の意識を代弁する。

長年英国のエネルギーを賄ってきた北海油田の産油量が近年急速に減少していることも、エネルギー安全保障への懸念を深め、原発への支持につながっているようだ。

だが、ここにきて原発に対する風当たりはやや強まってきている。昨年8月に政府が行った世論調査では、原発支持の割合が引き続き反対を10ポイント強上回ったものの、過去最低の33%まで低下した。

その原因とみられるのが、前述のEDFが進める英南西部ヒンクリーポイントの原発事業のもたつきだ。

EDFが使用する予定の新型原子炉は、先行して建設中のフランスやフィンランドでトラブルが頻発し、事業費が大幅に膨らんでいる。ヒンクリーポイント原発の事業費も当初見積もりから徐々に拡大し、現在240億ポンド(約4兆円)に達している。

英国政府は13年、電力1メガワット時あたり92.5ポンドの料金を35年間にわたって保証することを決定した。これは現在の電力価格のほぼ倍にあたる。政府は「電力の安定供給のため必要な保証であり、再生可能エネルギーに比べれば安上がりだ」と主張しているが、メディアからは「あまりに高価であり、再考すべきだ」(英紙ガーディアン)との批判が出始めた。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)エネルギー研究所上席研究員のポール・ドーフマン博士は「安全対策や廃棄物の処理費用で原発のコストは今後さらに膨らむ。稼働する頃には再エネ発電のコストが大幅に下回っているだろう。もはや経済合理性に合わない」と指摘する。

こうした状況の中で1月、非政府組織(NGO)が主催する原発の是非を考える集会が英議会の一室で開かれた。

「福島からの警告」と題し、東日本大震災当時の首相だった菅直人氏らが、原発事故当時の生々しい状況や原発周辺地域の現在の様子などについて報告を行った。参加者の大半は原発に批判的な市民だったが、少数ながら与党・保守党議員も顔を見せていたことに目新しさを感じた。

同党の議員の質問は「日本は原発を使わずに本当に脱炭素化できるのか」といった「脱原発」に懐疑的な内容だったが、原発批判の世論を気にかけている様子が見て取れた。

終了後、菅氏は地元メディアから「英国の原発計画を中止すべきだと思うか」といった質問を繰り返し浴びていた。菅氏は事故後、「原発がある限り事故はどこかで起きる。自然災害と異なり、原発事故による災害は使用しないことで防ぐことができる」との考えに至ったといい、「(原発推進の)英国で、こうした集会に多くの議員が参加したのは意味がある」と語った。

「原発は安価」という概念が揺らぐ中で、英国でも世論の潮目に変化は生じるのだろうか。今後の議論を注目していきたい。




http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160209/biz/00m/010/026000c