「働きたい」高齢者の支援加速 先行き不安で65歳以上求職者増加

「1億総活躍社会」に向け、政府は来年度から、65歳以上の高齢者の就労支援策を相次ぎ実施する。ここ数年、ハローワークを訪れる65歳以上高齢者の数が急増。働きたい、働かなければならない高齢者層に雇用の受け皿を用意したい考えだ。ただ、求職者の希望と求人内容にギャップがあるのも事実。年を追うごとに生活を維持できるか不安も高まるなど、高齢者雇用をめぐる現実は厳しい。

◆政府が受け皿用意

「過去の体験に縛られたり、素直さのかけらもない人はうざったがられます」

ハローワーク新宿の一室。講師を務める職員が、新たな職場で高齢者が働くときの心得について説明すると、20人程度集まった高齢者は一斉にメモをとった。毎週金曜日に開催される「65歳高年齢求職者就職支援ミニセミナー」の一コマだ。

全国のハローワークに求職に訪れる人の数を年代別にみると、過去4年間で65歳以上だけが連続で増加している。景気の回復傾向もあり、64歳以下ではどの世代も4年連続の減少だ。

JR新宿駅西口からほど近いハローワーク新宿の所内では、60〜70代とみられる求職者がパソコンで熱心に求人情報を閲覧する姿が目立つ。

「団塊世代が65歳を迎えたここ数年で、シニアの求職者がはっきりと増えている」。ハローワーク新宿の佐々木幸彦職業相談部長はそう話す。高齢者の数そのものが増えており、まだ元気で働きたいという人も多い。こうした動きに対応し同所では近年、高齢者層の就職支援に力を入れている。

特に高齢男性には転職経験のない人が多く、履歴書の書き方から窓口で指導する。高齢者専用の就職面接会や就職支援セミナーも定期的に開催しており、常に盛況だ。

とはいえ、希望の職種や条件に合った仕事を見つけられる人は必ずしも多くない。

雇用対策法により現在は求人情報に年齢制限を設けることはできないが、だからといって高齢者を積極採用する企業ばかりではない。ハローワーク新宿では効率的な求職活動を目的に、膨大な求人情報から高齢者の採用に積極的な企業を聞き取り調査で抽出し、まとめて公開している。

それでも「人気の高い事務系職種ではやはり若年層を優先して採用する。まずは労働市場を的確に理解する必要がある」と、高齢者の求職について佐々木部長は指摘する。

2012年の高年齢者雇用安定法改正により、企業は希望者全員を65歳まで雇用することが義務づけられた。ただ、高齢社会白書(14年)によると、50.4%の人が65歳を超えても働きたいと回答。退職後の働き方への関心は確実に高まっている。

政府も意欲の高い高齢者の再就職支援を後押ししようと、取り組みを強化する。定年退職後の再就職を支援するため、来年度に設立するのは「高年齢退職予定者キャリア人材バンク(仮)」。47都道府県に拠点を置き約6000社を会員にもつ再就職支援の産業雇用安定センターが管轄する。

会員企業を中心に退職を控えた50〜60代社員のキャリアや能力、就業希望などの情報を登録。地域の中小企業を想定し、65歳を超えても働ける企業とのマッチングを行う。

◆居住地域で雇用

郊外から都市部の会社に通勤していた人は、退職後、居住地域での雇用が期待される。地域の雇用掘り起こしにつなげるために「生涯現役促進地域連携事業」も開始する。

地方自治体が中心となり経済団体や金融機関と連携する「協議会」を設置。高齢者に対する仕事の情報提供や雇用創出などの事業計画に対し、国から委託費として3000万円程度が支給される。

高齢者に地域の仕事を紹介するシルバー人材センターも、就労時間の規制を緩和し、従来の週20時間から週40時間に引き上げる。清掃や駐車場管理などに偏りがちだった職域が、人手不足のサービス業や経験を生かせる事務などにも広がることを期待する。

パートや契約社員など非正規労働者にも、安定して働ける環境整備を促す。50歳以上の非正規社員を無期雇用に切り替えた場合は、対象者1人につき中小企業は50万円、大企業は40万円を同じ会社で10人まで助成する。

労働力人口に占める65歳以上の割合は14年には初めて10人に1人を上回った。

少子高齢社会で増える意欲の高い高齢者は貴重な働き手だ。ただ、その背景は生きがいや健康のためといった理由ばかりではない。

内閣府の調査(11年)では高齢者が仕事をする最大の理由は、男性では「生活費をまかなうため」がもっとも多く、過去2回の調査から大きく増加。消費増税や社会保障制度への不信感など、先行き不透明な日本経済の状況も「働けるうちは働きたい」という切実な実態を生み出している。

働き手としても生活の手段としても、需要の高まる「65歳以降も働く」環境整備が、ますます求められている。




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