油で揚げず病気にカツ 横浜の店主、がん闘病に負けず

創業約50年の横浜市のとんかつ店が、油で揚げずに窯焼きする「健康とんかつ」を開発した。従来の特許メニューを進化させたもので、専門店では珍しいという。がん闘病時の激励が後押しになったという店主の堀内強美(つよみ)さん(70)は「病気やダイエットで油分を控えなければいけないお客さんに食べてもらえる」と話す。

「健康とんかつ」は、軽く焼いた豚肉を、エノキと米粉で作った特製の液にくぐらせ、特注のパン粉をまぶす。米ぬか油を軽く噴霧し、特製の窯で焼き上げる。油で揚げたとんかつと変わらないサクサクした食感が舌を楽しませる。

完成までの道のりは平たんではなかった。従来のパン粉では、揚げずに焼くと剥がれてしまう。苦心の末、長年付き合ったメーカーを切り替えて新たなパン粉を採用した。焼く時間や温度も試行錯誤を経て「十四分、二五〇度」という答えを導き出した。

一九六七年に開店し、現在三店舗を営む堀内さんは、十五年前から「油の少ないとんかつ」作りに取り組む。揚げたとんかつを、ピザ窯を改良した窯で焼いて油を落とす「釜焼きとんかつ」を開発し、二〇〇九年には調理法と窯で特許を取得した。

その後「健康とんかつ」作りに着手した直後、大腸にがんが見つかり手術を受けた。肝臓にも転移し、抗がん剤治療で十カ月間入院した。

ある日、病院食にとんかつが出されないことに気付いた。病院でも患者の人気は高いメニューだが、油分がネックで提供を控えていた。「元気になって、油を使わないとんかつを作ってください」。栄養士から励まされた堀内さんは一一年に退院。その後、「釜焼きとんかつ」から揚げる過程を取り除いた「健康とんかつ」を完成させて、昨年十一月から提供を始めた。

堀内さんによると、専門店で同種のメニューはあまり例がないという。また、普通のロースとんかつが約六百三十キロカロリーあるのに対し、同じ重さの肉を使った「健康とんかつ」は約四百十キロカロリーに抑えられる。

揚げないとんかつの調理法は、一般向けにインターネット上などでも紹介されているが、ホテルモントレ横浜(横浜市中区)日本料理「隨縁(ずいえん)亭」料理長の松崎英司さん(55)は「窯の構造や焼く温度に注意を払って肉全体に熱をうまく行き渡らせている。専門店でしかできない工夫が随所に凝らされている」と評価する。

「命が助かったのは、神様から『おまえしかこのとんかつを作る人はいない』と言われたのかも」と振り返る堀内さんは「おいしさの追究だけでなく、油消費量を抑える意味もある。とんかつ界の改革につなげたい」と意気軒高だ。

堀内さんの店は「とんかつ美(び)とん さくらい」。横浜市内に、岡村店(磯子区岡村2の11の4)、井土ケ谷店(南区井土ケ谷下町44)、上大岡店(港南区上大岡西1の6の1)の3店舗がある。「健康とんかつ」は1400円。問い合わせは岡村店=電045(753)9090=など各店舗へ。




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