松尾モータース 「未使用車」に特化し5年で年商3倍

兵庫県下ナンバーワンの自動車販売店との呼び声が高い松尾モータース。松尾章弘社長(53)は軽の「未使用車」専門店に業態転換したのをきっかけに、会社の売り上げを3倍に伸ばし、注目を集めている。その経営戦略に迫った。

神戸と明石を結ぶ第2神明道路。その大蔵谷インターチェンジの近くに、松尾モータースの「軽スタジオ大蔵谷」がある。ワゴンR、アルト、ミライース、タント……。展示台数200台を超える敷地内にずらりと並ぶのは、軽自動車の数々。ピカピカの外装からすると一見、新車のように思えるが、実はそうではない。かといって、一般的な中古車というわけでもない。いわゆる未使用車(新古車)なのだ。

「未使用車とは、メーカーの販売目標達成のためにナンバー登録だけをした、まだ誰の手にも渡っていない車のことです。要するに、需要以上にメーカーが生産し、市場にあふれた車なんです」

創業55年の松尾モータースを切り盛りする2代目の松尾章弘社長はこう話す。未使用車の魅力は、なんと言ってもその安さにある。見た目も走行距離も新車とほとんど変わらないのに、価格はずっと割安。書類上は中古車のあつかいのため、新車購入時に必要となる重量税(1万3200円)もかからない。「いい車を安く買いたい」という人にしてみれば、有力な選択肢となるだろう。そうしたユーザーに支えられて同社の経営は目下絶好調。ここ数年間で売り上げを3倍(7億円→21億円)に伸ばしている。

今でこそ兵庫県下最大の「未使用車専門店」として知られる同社だが、8年前まではごくありふれた中古車販売店だった。

「あるときに中古車がまったく売れなくなってしまったんです。デフレの影響、ネットでの中古車情報の氾濫など理由はいろいろありましたが、とにかく今までの商売のやり方が時代の流れにそぐわなくなってきたのは確かでした」

そこで、松尾社長が決断したのが、未使用車専門店に完全シフトすることだった。在庫として持っていた中古車はすべて売却した上、未使用車だけを取り扱うようになった。

そこから同社の快進撃がはじまるわけだが、むろん単に業態を変えただけで成功できるほど車の販売業界は甘くない。実は、業態転換とともに松尾社長が力を入れるようになったのが「鉄砲よりも弾を売る」という戦略だった。つまり、車を購入してくれたユーザーに対し、車検や板金修理などの〝メンテナンスサービス〟で繰り返し来店してもらえるような仕組み作りを推し進めていったのだ。「鉄砲=車」「弾=メンテナンスサービス」とみなし、車を売る以上に車検、板金、保険などの販売に重点を置くようにした。

「メーンターゲットとしたのは、25〜35歳くらいまでの主婦層でした。一般に車の販売店は、女性が最も入りにくい店舗の一つと言われています。なかでも一番警戒心を持っているのは小さい子ども連れのお母さんたちではないかと考えました」

ターゲットを若い主婦層としたことで、取り扱う車種は彼女たちに人気の軽自動車に絞った。さらに店舗づくりも、お母さんたちの趣味を意識してブラウン系を主体にしたり、おむつ交換ベッドを置くなどの工夫を凝らした。敷地内に芝生広場を設けたのも、商談中に子どもたちが退屈せずに遊べるようにとの配慮からだった。とにかく若いお母さんたちにとって心地よい空間を提供できるように努めていった。

「まず車を購入するときに、心地よいお店であると知ってもらうこと。その上でお店に継続して足を運んでもらえるように促していくのです」

その具体策として重要視しているのが、半年に一度のオイル交換だ。車を買ってくれたユーザーに対しては購入後5年間のオイル交換を無料にするとともに、半年に一度オイル交換することを推奨している。そうやって定期的に来店してもらえる関係性を築くことで、車検や保険などの販売にもつなげていくわけだ。自動車のオイルも、オリーブオイルと同じように時間が経つと劣化する。だとしたら、高い頻度でオイル交換したほうがエンジンにとって好ましいのは当然である。このことをユーザーに啓蒙しながら、半年に一度のオイル交換を促していった。

「これらの戦略のベースになっているのは、いわゆる『生涯取引』理論。一度取引をしたユーザーと生涯にわたり取引を続けていこうとする考え方です」

現在、同社の月間販売台数はおよそ200台。ここ何年かは、横ばい状態が続いている。にもかかわらず、会社の売り上げが伸びているのは、メンテナンスサービスが好調だからだ。いまでは粗利の30%をメンテナンス関連から稼ぐまでになっている。ちなみに、店舗に併設したサービス工場は国土交通省から民間車検指定工場の認可を受けている。営業エリアである神戸市西区、垂水区、明石市で年間3000台の車検実績があるという。

「弊社で車を購入した奥さんの勧めで、旦那さんが自分の車を車検にもってくるというケースも多いんですよ」

もちろん継続してお店に来てもらうためには、接客や車両整備にあたる社員の〝品質〟も問われてくる。だから松尾社長は、社員教育に並々ならぬ情熱を傾けている。とりわけ力を注いでいるのが、①スピード②笑顔③大きな声の「3要素」の徹底だ。

「社員が笑顔で大きな声を出し、走り回っていればお店は元気に見えます。だから朝イチでテンションが上がるように、朝礼にも工夫を凝らしています」

同社の朝礼は元気にあふれている。平均年齢27歳の社員たちが丸い輪になり、コブシを突き上げながら「今日も1日、絶好調!」などと大声を張り上げている姿はパワフルそのもの。大きな声を出し体を動かすことでスイッチオン。朝礼当番のスピーチ→経営理念の唱和→感想発表などのメニューをこなして30分間の朝礼が終わる。この勢いそのままに日常業務に入るわけだからスタートダッシュはばっちりだ。最近はこの朝礼を見学しようと県外からもたくさんの視察者が訪れている。

経営理念の唱和のときに、それぞれの社員が手にしているのは200ページ超の手帳型「経営計画書」。そこには経営理念のほか、年に1回松尾社長が策定する経営方針なども記されている。

「私が作った経営計画をもとに、社員たちにはチームごとに実行プランを考えてもらっています。戦略立案は社長(トップダウン)、実行は現場(ボトムアップ)というかたちを取ることで『自分たちで作った実行計画だから』と、社員たちのモチベーションが上がるのです」

実はこれらの手法は、カリスマ経営者として知られる武蔵野(東京都小金井市)の小山昇社長から学び取ったもの。社員同士が感謝の気持ちを伝える「サンクスカード」を導入したり、「環境整備」(社内の整理整頓)に取り組むようになったのも小山社長の影響からだった。

「未使用車専門店にシフトする以前、どうにか会社の体質を変えられないものかと、さまざまな経営セミナーに参加しました。でもセミナーで学んだことを社内に落とし込もうとしても、どうしてもうまくいかなかった。そうした中で出会ったのが武蔵野のセミナーでした」

武蔵野流のやり方を参考にして、松尾社長自らがトイレ掃除をするなど環境整備に取り組んだり、経営理念の浸透を図っていくと、しだいに従業員たちの意識が変わっていった。そして、それとほぼ同じタイミングで進めたのが、中古車販売から未使用車販売へと業態をシフトすることだった。

「社員教育という〝地ならし〟があったからこそ、いまの経営戦略がうまく機能したのだと思っています」

松尾社長は近いうちに複数店舗体制にしたいと考えている。いま以上にメンテナンス需要を取り込んでいくためだ。ただし出店するのは、あくまで現在の営業エリアの中でだけ。目指しているのは、小さな商圏でシェアを高めていくビジネスモデル。だから、いたずらに商圏を広げる気はないのだという。

まつお・あきひろ

●1962年1月、兵庫県神戸市生まれ。近畿大学法学部卒業後、父親が経営する松尾モータースに入社。整備スタッフの仕事からスタートし、入社3年目に中古車販売店の店長に。2008年5月、「軽スタジオ大蔵谷」をオープンし、軽の未使用車専門店に業態転換。09年、社長に就任。

COMPANY DATA
松尾モータース
設 立 1961年4月
所在地 神戸市西区伊川谷町有瀬629-1
売上高 21億円
社員数 30名
URL http://www.kobe-car.co.jp/




http://news.goo.ne.jp/article/senkei/bizskills/senkei-20160127112424317.html