障害者に優しい職場を 浜松の田中さん署名活動

孫の自殺をきっかけに、障害者の働きやすい職場や社会をつくろうと、浜松市西区舞阪町の田中静子さん(74)が、国に働き掛ける署名を集めている。孫の鈴木航(こう)さん=当時(18)=は軽い知的障害があり、入社五十日目の昨年五月に先立った。「仕事で無理をしても、嫌と言えなかったと思う。無念だったろう」と胸中を推し量る。署名は四千近くになった。

航さんには、外見から分かりにくいものの、自分が見聞きした内容の理解が難しく、見てもすぐ忘れるなどの学習障害(LD)と知的障害があった。高校までの十二年間は皆勤賞。いじめに遭った時、「ばあば、けがしなかったんだからいいじゃん」と、田中さんに心配をかけないよう思いやる優しい孫だった。

障害者枠で自動車部品の製造販売会社に採用され、プレス機を扱うようになった。段取りや用語を多く頭に入れるため、工場で細かくメモを取り、自宅で夜遅くまで清書した。だが焦りを表すように、油が染み込んだノートの文字は徐々に乱れ、ひらがなが目立ってきた。自殺の前日には、ミスで機械を停止させた。

昨年五月二十日の朝。「手が荒れてる。ハンドクリーム買っといて」と頼んだ航さんに、田中さんが「今日買っとくでね」と返したのが最後の会話になった。航さんは普段より二十分早い六時五十分、勝手口から自転車で駅に向かい、ホームから貨物列車に飛び込んだ。

田中さんは人の顔を見るのが苦しい状態が続いた。署名は母親のゆかりさん(48)が十二月に始めていたが、仕事で多忙なため、一周忌あたりから田中さんが主に動くようになった。

時間を見つけては舞阪町や雄踏町を歩き、「障害者が能力にあった仕事に就けて、もっと優しい社会に」との思いを伝える。「頑張って」と励ましの声がある半面、「お金がほしいのか」という心ない言葉が胸に突き刺さることもある。

知人らと話すにつけ、孫の自殺と状況の似た不幸は少なくないと感じている。「分かりにくい障害もある。見た目で判断せずサポートしてほしい」と願う。

遺族側は、会社が障害への理解と安全配慮を怠ったとして、損害賠償を求めて静岡地裁浜松支部へ提訴しており、二十四日に第一回弁論がある。




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