飲み忘れ、服薬中断…「残薬」年間500億円分にも 医療費のムダどうする?

自宅に飲み忘れなどの薬が大量にたまる「残薬」。多くの種類の薬を処方されて適切に服用できない人だけでなく、自己判断で薬を中断する人もいる。医療費が無駄になるほか、きちんと服用しないことで症状が悪化し、さらに薬が増えるという悪循環もあり、各地で対策が進められている。

◆薬局などで配布

奈良県大和郡山市では今年9月、薬局などで「節薬バッグ」の配布を始めた。自宅にあるすべての薬を入れてきてもらい、まだ使えるかどうかを判断。新たに処方された薬と同じものや、効能が重なるものがあれば、薬剤師が医師に連絡して処方量を減らす。

同市薬剤師会理事の仲谷尚起さん(33)は「高齢者が多種類の薬を90日分など出されると、ほぼ確実に残ります」。バッグには薬剤師会だけでなく市や医師会、歯科医師会の名が記載され、連携して取り組む。介護関係者が市内の70歳の女性の自宅から約160日分の薬を発見してバッグに入れ、薬局に届けるなど効果が出ているという。

「節薬バッグ」は平成25年2月、福岡市薬剤師会がスタート。患者が残薬を薬局に持参しやすくするためのツールとして導入した。同会によると、残薬を活用することで削減できた薬剤費は処方全体の約2割に上り、取り組みが全国に広がっている。

◆処方変更も

高齢者の自宅で段ボール2箱分の残薬を発見、中には30年近く前のものも−。12年ごろから残薬をなくす啓発活動を続けてきた大阪市の社団法人「ライフハッピーウェル」代表で薬剤師の福井繁雄さん(41)は、そんな光景を何度も目にしてきた。

厚生労働省によると、潜在的な残薬は年間500億円分に上り、薬剤師の管理や指導によって400億円分は改善できると推計されている。福井さんは「薬はただではない。無駄になった薬が国の財政を圧迫していることを一人一人が考えてほしい」と訴える。

大阪府内の薬局ではポスターなどで残薬整理を呼びかけているが、府薬剤師会理事の道明雅代さん(60)は「なぜ残るのかを解明することが大切」と指摘する。1日2食の高齢者に食後3回分の薬が処方されていたり、漢方薬が苦手で全く飲めていなかったり…。こうした場合は、医師がその事実を知って処方を変える必要がある。また、認知症の場合は1種類だけ飲み忘れたりしないように薬剤師が1回分を1つの袋にまとめることもできる。

残薬を他人に譲渡したりすると、思わぬ危険も。例えば、高齢者が腰に貼るために処方された湿布薬を孫に渡し、孫がふくらはぎなどに貼って屋外で使った場合、紫外線と反応して光線過敏症を発症することがある。道明さんは「本人が過去の薬を使う場合でも、まず薬局に相談してほしい」と話す。

◆1錠ごとに情報

製薬業界でも取り組みが始まっている。モリモト医薬(大阪市)では、残薬を活用しやすいよう1錠ごとに薬の種類や消費期限などの情報を記載でき、保存性も高めた新しい包装「ESOP」を開発し、29年の生産開始を目指している。

盛本修司社長(56)は「現在の包装では切り離されると薬の種類や期限が分からなくなってしまう。1錠ごとに情報が明記されれば、使える薬を有効に活用できる」と説明。9月に「日本安全服用協会」を設立し、残薬の活用などに精通した「安全服用アドバイザー」を養成するという。

医薬品の包装などを研究する「創包工学研究会」(東京都千代田区)は「現在の一般的な錠剤の包装は防湿性が高くないため、長期間保存すると変質する可能性がある。保存性の高い包装に変われば残薬の安全性は高まる」としている。




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