がんの中でも最強クラスの難敵 胆管がん

今回は、川島なお美さんが54歳の若さで亡くなったことで、世間に広く知られるようになった病気「胆管がん」についてお話ししたいと思います。

胆管がんは私たち消化器外科医が専門とするがんの一つです。今年は任天堂の岩田聡・前社長や、柔道家の斉藤仁さんもこの病気で、いずれも50代で亡くなり、多くの人に衝撃を与えました。

それらのニュースを見るだけでも、胆管がんが非常に難しい病気である、ということは皆さんにも察していただけると思います。事実、すべてのがんの中でも、胆管がんは治療の難しさ、予後(治療後、何年生きていけるか)の悪さの両面で、もっとも困難なものの一つと言えます。

広い意味での胆管がんは大きく分けて、肝臓の内部を通っている胆管から発生する「肝内胆管がん=胆管細胞がん」と、肝臓の外を通る胆管から発生する「肝外胆管がん」に分かれます。

前者は専門的には「原発性肝がん」(肝臓で発生するがん)に分類され、肝がんの中では肝細胞がん(約90%)に次いで多いがん(約5%)です。限定的な意味で「胆管がん」と言う場合は、後者の「肝外胆管がん」の方を指します。川島なお美さんが患ったのは前者の方、肝内胆管がんでした。

では、胆管とはどのような臓器なのでしょう。一言で言えば、肝臓で作られた胆汁を十二指腸に運ぶ管のことです。十二指腸に運ばれた胆汁は、そこで膵臓(すいぞう)から来た膵液と一緒になります。胆汁は膵液の持っている消化酵素を活発にする働きがあり、そのことで脂肪やたんぱく質を分解して小腸から吸収しやすい状態にしてくれます。

胆管がんの初発症状の90%は黄疸(おうだん)です。

がんによって胆管の中が狭くなり、胆汁が逆流して血管の中に入ることで、皮膚や目の白い部分が黄色くなります。胆汁の中に含まれる胆汁酸という物質も血管を流れるため、皮膚に掻痒(そうよう)感(かゆくなること)が生じます。みぞおち辺りに軽度の痛み、体重の減少なども半数程度の症例で認められます。

黄疸を伴わない症例では腹部痛や発熱、食欲不振、全身の倦怠(けんたい)感などが初発症状として表れることが多いようです。がんが進行すると、体重の急激な減少や背中の痛み、腹部の腫れ、みぞおち周辺の痛みが強く出てくることがあります。また、便通異常(下痢や便秘)が続くこともあります。

治療は、がんの基本的な三つの治療法、外科的手術、化学療法(抗がん剤治療)、そして放射線治療が柱となります。中でも手術によって摘出「できる」か「できない」かが、予後を大きく左右します。

がんが見つかった時点で肝臓内の他の部位に転移がある場合、胆管から遠く離れたリンパ節、骨、肺、腹膜、脳などに遠隔転移がある場合には、残念ながら手術の適応とはなりません。

また胆管がんは進行が速いので、黄疸などの症状が出始めたのにしばらく放置しておくようなことをすると、非常に速く転移が進み、手術ができなくなるリスクが高まります。川島さんはしばらく手術を回避したとメディアで伝えられていますが、それが本当ならその間にがんの転移が進んだ可能性もあります。

手術ができない場合は、一般的に抗がん剤治療を勧められます。しかしこれは胆管がんを治すための治療ではありません。一時的に症状を緩和したり、あるいは一時的にがんを縮小させたりするための方法であり、抗がん剤治療だけで胆管がんを克服することは難しいと理解してください。

そのため、手術を経て再発したり、発見時にすでに転移していたりで、手術適応がない場合、その胆管がんを克服することは、かなり難しいのが現実です。

もう一つの治療法、放射線治療はリンパ節の遠隔転移がない場合に、がんが進行するのを抑えるために行う場合がありますが、標準治療ではありません。

予後は、完全に手術で切除できた場合で、5年生存率は40〜50%になります。しかし手術がそもそもできなかった場合や、完全にがんを取り切れなかった場合は10%未満と非常に厳しくなります。

以上のように胆管がんは、大変予後が悪い、我々消化器外科医にとっても、もっとも難敵と言える病気の一つです。すべての病気と同じように、早期発見・早期治療が一番大切なのですが、胆管がんについては有効な検診方法はなく、一般的な人間ドックでも早期の胆管がんを発見できるほど、念入りかつ精密な胆管の検査は行われていないことが多いでしょう。

黄疸などの症状を感じた時は大急ぎで専門医を受診することは当然ですが、不安がある時に個別にしっかり相談に乗ってくれるかかりつけ医を持っておくことも、大切だと思います。

小高雅人

佐野病院消化器がんセンター長

こたか・まさひと 

大阪府生まれ、1997年高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。同大学付属病院第1外科、高知県立中央病院(現・高知医療センター)外科、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院大腸骨盤外科などを経て、2006年から佐野病院消化器センターに勤務。13年同病院消化器がんセンター長に就く。専門は胃がん、大腸がんの手術と化学療法、その他の消化器がん治療。




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