特殊詐欺を防げ 「預金小切手」で時間稼ぎ 地域を守る~熊本県警からの報告

高齢者を標的に、言葉巧みに金をだまし取る「特殊詐欺」の被害が止まらない。熊本県警と県内金融機関は、多額の金を引き出そうとする高齢者に、現金ではなく「預金小切手」の発行を勧めるという新たな一手を始めた。万一、小切手が詐欺グループに渡っても現金化に手間と時間がかかり、だまし取られるリスクが軽減できる。

「だまされとらん! 何でおろせんのか!」

10月15日午後。窓口営業を終えた熊本銀行中央支店(熊本市中央区)で、特殊詐欺事件を想定した訓練が実施された。窓口業務を担当する行員ら14人が参加し、熊本北署員が熱演する“父親”に、対応した。

「息子さんが取引先に持っていく600万円をなくした。半分は自分が出すので、残り半分を都合付けてほしい」

訓練は、息子が勤める会社の上司を名乗る人物から、こんな電話があったとの設定で行われた。

窓口担当の女性行員はマニュアルに従い、用途や振込先を尋ねた。しかし、父親はその対応にキレてしまい、とりつく島もない。落ち着かせようと、父親を応接室へ通し、警察を呼ぶ。改めて息子に確認し、特殊詐欺事件と判明する-。

「もちろん、預金引き出しの大半は、詐欺事件とは関係ありません。『詐欺じゃないですか?』という行員の対応に、ほとんどの顧客は怒る。しかし、100件に1件でも本物の詐欺事件があるなら、その1件を防ぐために“最後の砦(とりで)”として声かけを徹底したい」

徳永祥二支店長は、こう語った。

熊本銀行総合企画部のまとめによると、同行の支店では、今年になって9月末までに振り込み詐欺や還付金詐欺とみられる高額現金引き出し事案が9件発生した。

3月にあったケースはこうだ。犯人グループは「あなたの預金が狙われている。行員も詐欺に加担している」と言葉巧みにだまし、葬儀費用名目で386万円を引き出すように、そそのかした。

総合企画部の川添幸治部長代理は「落ち着かない様子に行員が気付いたことで、事実が判明した。だが顧客は、『銀行も信用できない』という嘘にすっかり引っかかっていた。しつこいまでの声かけの重要性を再認識した」と説明した。

この件は、銀行と県警が連携することで、被害を未然に防いだだけでなく、犯人逮捕に結び付けた。

熊本県警と九州財務局は平成26年11月、県銀行協会や県信金協会など金融業界団体と「振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺犯罪の被害発生防止に関する協定」を結んだ。

だが、特殊詐欺グループの悪知恵は尽きることがない。対策も常に進化が求められる。

熊本県警によると、26年中の特殊詐欺被害は87件(対前年比16%増)で金額は計約6億4千万円だった。被害額は過去最悪だった。今年も9月末までに74件計約1億9千万円の被害が確認された。

県警生活安全企画課の担当者は「被害者の75%は高齢者で、今年に入ってからは飛行機や新幹線を使って、東京や大阪に現金を持参させてだまし取る『上京型』『上阪型』が多発している」と分析した。

県警は金融業界団体との協定に基づき、昨年末から「預金小切手等を活用した特殊詐欺被害防止対策プラン」を導入した。

預金小切手は自己宛小切手とも呼ばれ、顧客の依頼に応じて銀行が発行する。預金など発行者の資金の範囲内で発行するので、不渡りの恐れがなく、法的には現金と同様に扱われる。

一方、小切手に記載された支払先の名前の口座でしか現金を受け取れず、誰に現金が渡ったかを確認できる。また、小切手の現金化には数日かかり、その間に口座を凍結すれば詐欺被害も防げる。静岡県警が25年12月から全国に先駆け運用を始めた。

プランによると、熊本県内の金融機関は、75歳以上の高齢者が300万円以上を引き出そうとする場合、預金小切手発行を勧める。詐欺被害が想定される場合、まず、息子などお金が必要という本人口座への振り込みを提案▽拒否された場合、預金小切手発行を勧める▽応じない場合は警察に通報する-の三段構えで被害を防ごうとしている。

運用開始から今年8月までに335件の通報があり、うち62件は詐欺被害を未然に防げたという。

県警生活安全企画課次席の川辺信一警視は「特殊詐欺の被害額は窃盗よりもはるかに大きい。一人でも特殊詐欺の被害者を減らすための対策であり、面倒かもしれないが、協力をお願いしたい」と述べた。




http://www.sankei.com/west/news/151102/wst1511020015-n1.html