<医療>「抗がん剤は効かない」は本当か

川島なお美さんが胆管がんで急逝、また北斗晶さんが乳がんを告白と、著名人のがんのニュースが相次ぎ、改めてがんの予防や治療への関心が高まっています。しかし、がん治療についての誤解や、科学的根拠のない代替療法の宣伝などが、インターネットを通して無限に拡散されているのが現状です。「患者さんに害を及ぼす情報を放置してはいけない」と発信を続けている日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之医師に聞きました。

--川島なお美さんの訃報の後、「『抗がん剤の副作用でステージに立てなくなる可能性があるなら、私は最後まで女優として舞台に立ち続けたい』というのは、抗がん剤に対する誤解ですので残念です」という先生のツイッターやフェイスブックでの投稿は、大きな反響がありました。一歩踏み込んだ発言だと感じましたが、どのような思いで発信されたのでしょうか。

抗がん剤に対する誤解が、さらに広まってしまうのではと危惧しました。この10年ほどの医学の急速な進歩で、抗がん剤の副作用対策はかなり進みました。僕の患者さんには、きちんと副作用管理をして、抗がん剤治療を受けながら仕事を続けている人が大勢います。それなのに「誰もが吐いて、髪の毛が抜けて、体がぼろぼろになって、寝たきり状態で仕事ができなくなってしまう」という世間の抗がん剤のイメージは、ほとんど変わっていません。もちろん、すべての副作用が無くなったわけではなく、不快な症状を伴うことはありますが、旧来の副作用のイメージとは大きく異なるのが事実です。そして患者さんの選択は尊重しなければなりません。ただ、著名人の影響力は大きく、正しい情報を受けられていたのかが気になりました。また、抗がん剤治療への誤解をあおるようなメディアの報道の仕方にも大きな問題があると感じました。

--抗がん剤治療は、入院して受けるというイメージがありました。

がんは、白血病などの血液がんと、それ以外の固形がんに分かれます。血液がんは抗がん剤だけで治る可能性があるので、連日強力な抗がん剤を投与するため、入院する必要があります。一方、固形がんの抗がん剤は、一部の治療を除いて、ほとんどが通院で受けることができます。通院治療が可能であれば、患者さんの生活の質(QOL)を保つことを考えて、通院で行うことが原則と思います。欧米では通院治療が主流です。しかし、日本では慣習で初回の抗がん剤治療は入院としたり、基本的にすべて入院でやっていたりと、9割以上の病院で一度以上は入院させています。もちろん、がんが進行し、症状が出て体力が弱って通院治療が困難な場合など、入院が必要な場合もありますが、まだまだ通院治療が遅れているという現実があります。

--インターネット上や書籍では「抗がん剤は効かない、逆に命を縮める」という言説が多く見られます。そもそも、抗がん剤でがんは治るのでしょうか。

まずは、「抗がん剤が効く」とはどういうことか説明しましょう。先ほど、血液がんは抗がん剤だけで治る可能性があるとお話ししましたので、ここでは固形がんについてお話しします。抗がん剤を使う目的は、大きく分けて二つです。一つは手術や放射線治療後の再発を予防する(完治率を高める)治療、もう一つは進行再発がんに対する延命(がんが大きくなるのを一定期間防いで共存する)治療です。いずれも、効果があることが科学的なデータで示されています。また、分子標的薬などの新薬が毎月のように登場し、これまで治療が難しかった患者さんにも可能性は広がっています。

しかし、抗がん剤に限界があることも正しく理解しなければなりません。特に進行再発がんについては、現状では完治は極めて難しい。抗がん剤には副作用がありますし、ほとんどの固形がんは、次第に抗がん剤への耐性を持ちます。どのような患者さんに抗がん剤が適応するかは、がんの種類、ステージ、年齢、全身状態や臓器機能によって一人一人異なります。また、最も重要なのは患者さんの価値観です。医療者は正しい情報提供をした上で、患者さんが大切にしたいこと、QOLを考慮し、抗がん剤治療を続けるか続けないか、最善の方法は何なのか一緒に考えていくことが大切です。




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