既得権益あぶり出すマイナンバー 日本全体を一気に変える可能性秘める

10月の通知で始まったマイナンバー制度だが、導入当初に個人が享受できるメリットはそう多くない。せいぜい年金受給や児童手当の申請など行政機関で手続きをする際に添付書類が省略できるくらいだ。

一方、政府関係者の多くは「マイナンバーはこれからの日本にどうしても必要な社会インフラだ」と説く。急速に少子高齢化が進むいま、年金財政は逼迫し、社会保障の拡充どころではなくなってきている。マイナンバーを手がかりに複数の機関に分散している個人情報を確認すれば、個人の所得と資産が特定できる。税の取りはぐれを防ぎ、支援を求める人に分配する公平な税制を実施することができると期待しているのだ。だがマイナンバー導入の目的はそれだけではない。

自分の番号が記された通知カードと引き替えに来年1月から交付される「個人情報カード」にはICチップが搭載されており、多くのデータを登録する余地がある。普段あまり意識することはないが、私たちはすでにいろんな番号を持っている。市町村の住民番号、雇用や介護保険の番号、健康保健やパスポート、自動車登録の番号、クレジットカードや銀行口座の番号もある。医療機関の診察券番号もあるし、サラリーマンなら社員番号もある。理論的にはこれらの番号をマイナンバーに紐づけて1枚のICカードに集約することが可能だ。

空き家や耕作放棄地が放置されているのは土地や家屋の所有者を探すのに手間がかかるからだが、マイナンバーを戸籍事務に応用すれば利用促進に役立つし、災害被災地の復興にも寄与する。マイナンバーから過去の医療記録を引くことができれば、転居や災害で過去にどんな治療や投薬を受けていたかが分かるし、転院の度に初診の問診票を書かなくてもいい。マイナンバーの利用範囲が拡大すれば、利用者メリットが広がり、暮らしに欠かせない便利なツールになるだろう。

ただ、マイナンバーの利用範囲拡大には守旧派の抵抗が予想される。例えば金融口座への応用では「休眠口座」問題だ。

休眠口座とは、住所や連絡先が不明で一定期間出し入れがない預金口座のことだ。学生時代などに親が子ども名義でつくったが、その後利用しなくなった、ATM(現金自動預け入れ払い出し機)で引き出せない少額残高で金融機関の統廃合で使わなくなった、通帳や印鑑などを紛失した、名義人本人が亡くなっているなどケースは様々だが、いま約1300万件を超し、総額では毎年800億円以上にのぼるという。

休眠口座の預金にも利子が付く。本来は持ち主に返さなくてはならないお金だが、返還請求がなければ一般金融機関は5年か10年、郵便局は20年経つと「雑所得」として計上できる。その利益金は全体で毎年約500億円。マイナンバーの利用が金融口座にも広がれば休眠口座も激減するはずだが、金融機関は導入に消極的だ。

マイナンバーの利用範囲拡大はその裏に隠れていた既得権益をあぶり出すことにつながる。言い換えればマイナンバーは社会の仕組みやシステム全体を「見える化」し、日本全体を一気に変える可能性を秘めているのだ。

抵抗の大きさを予想してか、政府は当面、マイナンバーの利用を税と社会保障、災害の3分野に限定して導入し、国民の理解を深めてから戸籍や旅券、自動車登録事務、医療介護・健康情報や個人金融口座などへ順次拡大していく方針だ。マイナンバー制度を研究してきた富士通総研経済研究所の榎並利博主席研究員は「利用範囲の拡大を阻むのは省庁の縦割り行政と既得権益です。国民はマイナンバーに関心を持ってその運用をしっかりと監視し、見守っていく必要がある」と話している。




http://www.sankeibiz.jp/macro/news/151011/mca1510110702001-n1.htm