胃がんのリスク9割減も ピロリ菌除菌の効果

前回ご紹介した「機能性ディスペプシア(FD)」の代表的な症状は、食後のもたれ感などの運動機能異常と、心窩部(しんかぶ=みぞおち)痛などの知覚機能異常で、これらは胃炎でも胃潰瘍でも起こるとお話ししました。この胃炎や胃潰瘍の原因として大きな比重を占めているのが「ヘリコバクター・ピロリ」、通称「ピロリ菌」です。今回は、ピロリ菌によって引き起こされる症状と対処法についてお話しします。

ピロリ菌は胃の粘膜内にすむ細菌です。胃の中は胃酸によって強い酸性になっているので、通常、細菌はすめません。それなのにピロリ菌がすんでいられるのは、ウレアーゼという酵素を分泌するからです。ウレアーゼは胃液中の尿素を分解してアルカリ性のアンモニアを作ります。それによって、ピロリ菌は自分の周囲だけ胃酸を中和して生きているのです。

ピロリ菌は口から体内に侵入します。免疫の強い大人は菌が侵入しても排除されますが、幼い子どもは感染し、菌と共存するようになります。感染源はおもに水と言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。日本では、衛生環境の整備が不十分だった時代に生まれた50歳以上の感染率が高く、若い世代ほど低くなっています。

ピロリ菌はいろいろな病気の原因になりますが、なかでも以前から注目されていたのが胃がんとの関連でした。近年、胃がん発症のリスクになるという証拠が十分に集まり、世界保健機関(WHO)は2014年、全世界の胃がんの80%はピロリ菌感染が主たる原因であると発表しました。

ピロリ菌に感染すると、ほぼ全員が慢性胃炎(ピロリ感染胃炎)になります。そうなるまでにかかる時間は、数カ月から長い人では10年以上と、人によって違います。慢性胃炎を放置していると約85%の人が、胃酸などを分泌する組織が萎縮変性した「萎縮性胃炎」に進行し、萎縮がさらに進むと胃の粘膜が腸のような細胞に置き換わる「腸上皮化生」が起こります。この腸上皮化生を起こした人が胃がんを発症する高リスク者であることがわかっています。このように、ピロリ菌に感染してからの変化を考えると、胃がんになるのはピロリ菌感染者の約0.5%と想定されています(図参照)。

つまり、慢性胃炎から萎縮性胃炎に進行するのを防げば、ほとんどの胃がんが予防できるわけです。胃がんは日本人にとても多いがんですから、その予防ができれば多くの人に恩恵をもたらします。そこで、2013年2月から、それまで胃・十二指腸潰瘍などにしか保険適用が認められていなかった除菌治療が、慢性胃炎でもできるようになりました。これをきっかけに、年間の除菌治療数はそれまでの2倍以上に増えています。

除菌治療では、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と、抗菌薬のアモキシシリンとクラリスロマイシンの3剤を、朝夕2回、7日間服用します。この1次除菌で、約70%の人はピロリ菌がいなくなります。除菌できなかった人はクラリスロマイシン耐性菌である可能性が高いので、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変えて同様に治療します。2次除菌は約9割に効果があり、1次・2次合計の除菌成功率は95%ほどになります。2次除菌にも失敗した場合は3次除菌もできますが、これは自費診療です。

今年2月、PPIと作用メカニズムが異なり、胃酸を抑える効果がより高いP-CABと呼ばれる薬が登場しました。臨床試験では1次除菌で約83%に効果があったので、今後、除菌治療の成功率が向上するのではないかと期待されています。

ある試算では、3歳でピロリ菌に感染した人が40歳までに除菌すると萎縮性胃炎にならずにすみ、胃がんが90%減るとされています。食後のもたれ感や胸やけなど慢性胃炎の症状がある人はピロリ菌に感染しているかどうか調べ、感染していたら50歳までに除菌治療を受けることをお勧めします。除菌できれば症状がよくなりますし、何より胃がんが予防できるのです。





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