北工作員ら450人超を聴取したスペシャリストが語る金正恩政権の闇 「北が拉致被害者の生存を隠す理由は…」

北朝鮮から亡命した元高官や拘束された工作員ら450人以上を聴取した北朝鮮スペシャリスト中のスペシャリストがいる。米中央情報局(CIA)元要員のマイケル・リー氏(81)だ。拉致された著名韓国人夫妻の脱出を裏で支援するなど、北朝鮮による拉致の手口にも精通する。金正恩(キム・ジョンウン)政権は、日本人拉致被害者らの再調査開始から1年以上過ぎたが、一向に拉致被害者の調査結果を出そうとしない。正恩政権の真意はどこにあるのか-。リー氏に聞いた。

「私は、生きていると信じている。心証がある」

リー氏が米国から来日した際行ったインタビューで、北朝鮮による日本人拉致被害者についてこう話した。

韓国西部の忠清南道(チュンチョンナムド)扶余(プヨ)に生まれたリー氏は、在韓米軍の情報部隊に勤務。1970年代には、米国に移住し、CIAの情報要員として、2000年まで対北情報戦の前線に身を置き続けた。

在韓米軍とCIAを合わせて通算約40年間に北朝鮮から亡命した元高官や拘束された工作員ら450人を超える北朝鮮関係者から聴取した希有な経験を持つ。

70年代に北朝鮮に拉致された韓国人女優の崔銀姫(チェ・ウニ)さんと映画監督の申相玉(シン・サンオク)氏夫妻が、欧州経由で脱出するのを裏で支援もした。

87年に起きた大韓航空機爆破事件の実行犯で韓国の情報機関に逮捕された金賢姫(ヒョンヒ)元工作員も聴取対象だった。その中で、日本語教師役だった拉致被害者、田口八重子さん(60)=拉致当時(22)=について知らされた。早い段階から日本人拉致の存在を把握していた一人だ。

「北朝鮮は必要なら(日本人拉致を)やるだろう」とリー氏は当時、感じたという。

北朝鮮は、田口さんについて「死亡した」と主張しているが、死亡したとする時期以降も目撃情報があるなど、矛盾点が少なくない。リー氏は最近も、金元工作員から直接、田口さんは「生きている」と聞かされたという。

北朝鮮が重ねてきた外国人拉致について、リー氏は「日本人だけでなく、他の国からも、たくさんの人々を拉致してきた。なかには、中東の女性もいる」と説明しながら、多くの日本人拉致の特異点にも触れた。

「日本人拉致は、犯罪行為、すなわち、対南(韓国)工作に関係のある犯罪行為であり、拉致問題を解決するためには、自分たちの秘密と犯罪行為を全て明らかにしなければならない」と、北朝鮮が多くの拉致被害者について「死亡した」と主張し続ける理由を説明した。

では、なぜ金正日(ジョンイル)総書記は、2002年に拉致を認めて謝罪し、被害者5人を帰国させたのか。

リー氏は「犯罪性が問題だ」とした上で、「日本に戻って、いろいろなことを話しても、自分たちには、被害が及ばない人は帰した。犯罪性を立証できたり、暴露できたりする人は帰していない」と指摘する。

「対南工作に関わる秘密工作に利用した人や、犯罪性のある仕事に携わった人については、隠すしかない」と強調した。

「これらの人々に関しては、いろいろ説明するのも煩わしく、『死んだ』と言っている」

リー氏はこうも断じる。

「犯罪性を隠蔽するため、絶対に真相を公開しないだろうし、できない。やるフリはするが、しない」

それではどうして、金正恩政権は昨年、拉致被害者の再調査を約束したのか。いまのところ、北朝鮮側に目に見える形で得たものはない。

リー氏は「北朝鮮がやっているのは、時間稼ぎのための一つの巧妙な方法にすぎない」と断言する。

正恩政権は、日朝合意が履行されている間は少なくとも、日本が米国などと組んで対北強硬策に出ることはないとみており、日本が米国との連携を強めるのを足止めさせる一定の効果があるというのだ。

その上で、「日朝がいくら時間をかけて協議し、合意に達したとしても、完全な解決はあり得ない」と北朝鮮側の拉致調査の行方に悲観的な見方を示した。

「正恩政権が崩壊するまで、真実を明らかにしないだろう」とも言う。「北朝鮮が真実を語るというのは、自分で自分の犯罪を暴露することを意味するからだ」

拉致問題は、解決の見通しはないのか。現在の北朝鮮内外の情勢から、逆に解決の「チャンスだ」とも強調する。

正恩政権は「非常に不安定な状態」を見せており、日米韓の出方次第では、遠くない将来、政権が崩壊し、南北統一する可能性があるという。

「正恩政権が崩壊し、南北統一すれば、全ての真相が明らかになる。日本人(拉致被害者)は、全員帰国できる」

一方で、正恩政権の崩壊シナリオに向け、日米韓が結束して当たれない状況もあるという。最大の阻害要因は「韓国政府の弱腰姿勢」にあると訴える。




http://www.sankei.com/premium/news/150916/prm1509160002-n1html