患者に広がる戸惑い 入院中の食事代負担引き上げ

国の医療保険制度改革で、入院中の食事代の自己負担が2016年度から段階的に引き上げられる。負担増の足音が迫る中、大阪府内の患者に戸惑いが広がり、病院食を敬遠する声も聞こえてきた。しかし、病院食は治療の一環でもある。引き上げ分が食材費に反映されるわけではないため、医療現場は対応に苦慮している。

「病院で食べるのをやめようとする患者も出るだろう」。大阪市内で入院中の男性(71)が窮状を口にした。

年金は減額される半面、介護保険の自己負担は上がり、紹介状がないまま大病院を受診した場合の定額負担も16年度から導入される。「そこに食事まで値上がりすれば、年金はほとんど残らない」

公平性の確保

入院中の食事代は全国一律で1食640円。このうち380円が医療保険で賄われ、患者は260円を自己負担している。

厚生労働省によると、5月に成立した改正医療保険関連法で、自己負担は16年度から1食360円、18年度から460円となる。18年度から1カ月間入院した場合、現行の2倍近い4万1400円に膨らむ計算だ。引き上げの対象者は年間70万人を見込む。

同省保険課は「在宅療養中の患者らとの公平性を図るためにはやむを得ない。値上げは心苦しいが、経済的に厳しい方への配慮として段階的に対応する」と説明する。

しかし、約5千人で組織する大阪腎臓病患者協議会は、危機感を強めている。国や大阪府内の各機関に助成継続の要望を重ねており、府議会には「これ以上の自己負担を求められると、生活できない」との請願書を提出した。

西本幸造会長(61)は「入院患者の大半は家計の苦しい高齢者。このままでは入院自体を拒む病人も出かねない。患者の声に耳を傾け、現場の実態に沿った行政に転換してほしい」と訴える。

治療食の役割

「従来と同じ料理では、患者からすれば理不尽だろう。コンビニ弁当で済ませる人が増えないか心配」。大阪市淀川区の病院担当者は不安を漏らす。

今回の改革は、高齢化を背景に膨らみ続ける社会保障費を抑えるのも狙い。患者負担は増えても、食事代は1食640円のままだ。

大阪市立大医学部付属病院(同市阿倍野区)では、季節の食材や行事食を増やしたり、高級感のある食器の導入を摸索するという。同病院の管理栄養士(45)は「食事の中身も見直しが必要となるだろう。患者の要望を聞きながら対応したい」と話す。

ただ、多くの現場はまだ手探り状態。市内の複数の病院関係者に取材すると「院内で対応を協議中」「どうしたらいいか分からない」と答えた。

入院中の食事は、医師や栄養士らの指導の下、患者の症状に合わせて提供されている。

大阪青山大健康科学部教授で大阪府栄養士会の藤原政嘉会長(72)は言う。「栄養状態が悪いと、免疫力の低下や感染症を起こしやすくなる。病院食はコストだけでは計れない治療食としての大切な役割を持つ。どこまで患者の理解を得られるか、説明と周知も問われる」




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